分譲マンション全体で行う大規模修繕工事は、経年劣化による傷みを修繕し、建物の耐久性向上を目的に実施される必須のメンテナンスです。
この大規模修繕は12年周期で行われることが半ば慣例になっていますが、法令上の義務ではなく、管理組合の取り決めにより10~18年と幅広いスパンで行われています。
この記事では、「12年ごと」が全国一律で目安になっている理由や周期を延ばして修繕費用を節約するコツなどを紹介します。
どのような建物でも、長年雨風にさらされ、中度以上の地震に繰り返し見舞われていれば、次第に傷みや劣化がみられるようになります。
一戸建てであれマンションであれ、木造でも鉄骨でもこれは避けられません。
建物を長持ちさせる手段は、定期的に適切なメンテナンスを行うことです。
これを怠ると、美観を損なうだけでなく、老朽化した外壁のタイルが剥がれて落下するなどの事故が起こりやすくなります。
安全・安心・快適を失った建物は、周辺環境に悪影響をもたらし資産価値も目減りするので、マンションなどの集合住宅であれば住人全体に影響が及びます。
ただ、分譲マンションの修繕というのは、そうお気軽に実施できるものではありません。
一戸建てであれば、リフォームのタイミングや内容は家の持ち主の考えや都合次第で決められます。
しかし、マンションの場合は劣化した箇所の個別修繕ではなく、計画的に積み立てた資金で、全体をまとめて定期的に大規模修繕を行うことになるからです。
この大規模修繕は、マンションの長期修繕計画に沿って実施されるのが一般的です。
以下では、大規模修繕が必要な理由として2つ取り上げます。
大規模修繕を行わないまま劣化を放置した場合、マンションの住民が直面するのは、“生活に支障をきたす”という問題です。
たとえば、給排水設備の修繕工事を怠ると、ある日突然、水道の水が出なくなったり、トイレが流せなくなったり、といった事態が生じるかもしれません。
エレベーターや機械式駐車場などの共用部分も同様です。
エレベーターが止まり、車が出庫できなくなって初めて大規模修繕の大切さに気づいても遅すぎます。
故障や不具合だけでなく、付属する設備の仕様が古くなっただけでも、生活上の不便さを実感することが増えるはずです。
建物の経年に伴う劣化を放置すると、見た目やイメージが悪くなりますから資産価値も低下します。
将来、売却や賃貸によって収益化しようとしたとき、価格や家賃を下げざるを得ないかもしれません。
また、前述した外壁の劣化によるタイルの落下事故も想定されます。
このような事故を未然に防ぐためにも、大規模修繕は必要不可欠なのです。
具体的には、外壁の補修や塗装、外壁タイルの補修、屋上の防水塗装、給排水管の補修、セキュリティ設備やエレベーターの修理など、マンションに関する共用部分が対象です。
これだけみても、マンションの長期修繕計画を立てて実行するほどの大がかりな工事というのがわかりますね。
大規模修繕工事は、回数を重ねるごとに改修すべきポイントも増えていきます。
2回目以降の工事では建物の劣化度合いが1回目より進むので、改修の内容も変わってくるのです。
回を追うごとにコストが増大していくので、そのための修繕費用の積み立ても入念に担保していきましょう。
マンションの大規模修繕工事の時期は、一概に築何年後と決まっているわけではありませんが、おおよその目安は“12年周期”というのが常識化しているようです。
築後10年を経過した外壁がタイル貼りなどのマンションは、3年以内に外壁の全面打診調査を行うよう定めた、建築基準法との関係からそうなったともいわれています。
しかし、建物の状態によっては、この12年周期を多少早めたり遅らせたりする対応も必要となるため、まずはマンションの状態をしっかりと把握することが大切です。
現在、多くの分譲マンションは12年周期の大規模修繕を前提としているので、これが一般的といえるでしょう。
しかし、南北に長く、また、海辺と内陸部で気候も大きく異なるわが国では、建物の経年劣化の進行度にも差があるはずです。
にもかかわらず、12年周期の大規模修繕を前提としているマンションが多いのはなぜでしょうか。
その理由を探っていきます。
国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインに“12年周期”と表記している箇所があり、それが12年ごとに大規模修繕行うことが一般化した大きな理由と考えられています。
しかし、「中高層単棟型のマンションの一般的な仕様や工法を想定し、関係する既存文献を参考にしたおおよその目安。マンションの仕様、立地条件等に応じて修正します。」とも書かれており、12年周期を義務付けたり、推奨したりしたものではないことがわかります。
このガイドラインは令和3年9月に改訂された最新版では、大規模修繕工事の周期について「部材や工事の仕様等により異なるが一般的に12年~15年程度」に変更されました。
経年劣化というと、建材もそうですが、マンションに使われる塗料の寿命もおよそ8年程度、長持ちして12年程度といわれています。
12年以上経過すると塗料は浮き、ひび割れや結露、欠損などが進行し、コンクリート躯体を十分に保護することができない状態となるのです。
建物外部に使用されている防水材、シーリング材、タイルなども10年を超えたあたりから、劣化の兆候が表れ始めます。
塗料や防水材などはコンクリートを保護する役割があるので、ひび割れや膨れなどの劣化の兆候が見られた際は、軽度のうちにケアをして負担を減らしましょう。
“特定建築物定期調査”とは、建築基準法により定められている調査です。
外壁タイルなどの落下により歩行者等に危害を加える部分について、10年ごと(3年以内に外壁改修等が行われる場合はその時まで)に全面打診調査と報告を義務付けたものです。
対象となる特定建築物は、国と地方自治体がそれぞれ定めています。
特定建築物に該当した建物は調査・報告が必要なため、このタイミングに合わせて大規模修繕工事を実施するマンションが多いことも12年周期が多い理由の一つです。
概ね12年周期を目安とした大規模修繕の実施が定着している背景には、全面打診調査の時期との兼ね合いといった事情もあります。
平成20年4月1日に改正された建築基準法で、竣工・外壁改修後10年を経た建築物は、10年を超えた最初の調査の際に、全面打診等による調査を行うことが義務化されました。
全面打診調査とは、外壁タイルやモルタルの表面を打診棒やテストハンマーなどの検査器具を用いて、タイルやモルタルの“浮き”の有無を調べる方法のことです。
叩いた時の音の反響で異常を判断するため、知識と経験が必要な作業です。
3年以内に確実に外壁改修が行われる見込である場合には、全面打診調査の実施の猶予を受けることができます。
打診による調査以外に赤外線による外壁調査でも問題ないのですが、全面打診調査を行うには足場が必要になります。
このため、大規模修繕を実施したほうが費用が安上がりになるとして、12年目の大規模修繕を強く薦めている管理会社が多いのです。
分譲マンションの大規模修繕は12年周期が目安として、それ以外の商業ビルや賃貸マンションなどの収益ビルはどうなのでしょう。
実は収益ビルの大規模修繕はオーナーの判断により行うことになっています。
分譲マンションのように修繕委員会などが設置されて大規模修繕を実施するわけではなく、ガイドラインによる具体的な周期の年数などもありません。
とはいえ、建物が劣化しないということではないので、適切な補修や修繕を行うことで資産価値を保っていく必要があるのは分譲マンションと同じです。
特に、店舗やオフィスなどの商業ビルや賃貸マンションは、入居者が入らないと賃料収入にならないので建物の状態を適切に保つことは重要です。
この際、新しい技術を導入してリノベーションを行えば、建物の付加価値を上げることにもつながります。
分譲マンションの大規模修繕は12年間隔が主流とはいえ、材料や工法の進化により15年や18年といった周期で行うことも可能になっています。
ガイドラインはあくまで目安であって、順守する必要はないのはこれまで述べてきた通りです。
実際、大規模修繕の周期は10~15年程度に設定しているマンションが多いようです。
同じマンションを12年で大規模修繕する場合と15年で大規模修繕する場合では、15年周期で行う場合のほうが次の修繕までの間隔が長くなります。
一見コストメリットがありそうですが、劣化がより進むので、結果的に修繕費用が高額になってしまうというのが、12年周期を良しとする論拠でした。
しかし現在では、高い耐久性を実現できる材料や工法が開発され、修繕と修繕の合間に軽微なメンテナンスをきちんと行うことで、修繕スパンを延ばす手法が確立されています。
修繕工事の周期を延ばすことは、管理組合の負担軽減とコスト削減につながり、住民と関係者に大きなメリットになります。
大規模修繕の周期を延ばすポイントは、“防水”“外壁塗装”“シーリング”の3つです。
これらについて、使う資材の種類や価格、耐用年数などを踏まえて解説します。
防水工事の主なものは、ウレタン防水やシート防水、アスファルト防水、FRP防水の4種類です。
同じ材料を使った工事でも、工法によって工費は異なるので、コストや耐用年数を考慮しながら、それぞれの建物に適したものを選ぶのが一般的です。
たとえばウレタン防水の密着工法などは、このなかではコストがもっとも低いですが、耐用年数は一番短いです。
逆に、耐用年数の長さで選ぼうとすると、15年以上もつシート防水の機械固定工法やアスファルト防水などはコストも高くつきます。
ただ、耐用年数が長いものは、大規模修繕工事のスパン延長を前提としているので、トータルでみるとコストカットにつながるはずです。
マンションの大規模修繕はリードタイムも長いので、専門家と相談する時間はたっぷりあります。
どの工事・工法がふさわしいか、住民同士で話し合って決めてください。
2024年7月現在の各防水工事の相場
工事種類 | 工法 | 期待耐用年数 | 施工単価 |
ウレタン防水 | 通気緩衡工法 | 12~15年 | 6,500~8,500円/㎡ |
密着工法 | 10年程度 | 3,500~6,000円/㎡ | |
シート防水 | 機械固定工法 | 15~18年 | 6,000~8,000円/㎡ |
密着工法 | 10~15年 | 5,000~7,000円/㎡ | |
アスファルト防水 | 熱工法 | 15~20年 | 6,000~8,000円/㎡ |
トーチ工法 | 5,000~7,000円/㎡ | ||
常温工法 | 7,000~9,000円/㎡ | ||
FRP防水 | 10~15年 | 5,000~8,500円/㎡ |
外壁塗装に使用する塗料の主な原料は、アクリル、ウレタン、シリコン、フッ素の4種です。それぞれの耐用年数と施工単価の目安は、以下の通りです。
塗料工事の種類と単価
塗料の種類 | 期待耐用年数 | 施工単価 |
アクリル塗料 | 3~8年 | 1,000~1,800円/㎡ |
ウレタン塗料 | 5~10年 | 1,700~2,500円/㎡ |
シリコン塗料 | 7~15年 | 2,300~3,500円/㎡ |
フッ素塗料 | 15~20年 | 3,000~5,000円/㎡ |
これらのうち、耐用年数とコストのバランスの良さ、すなわち、コストパフォーマンスの良さから、もっとも普及しているのはシリコン塗料です。
外壁によっては、ウレタンが適しているものもありますが、耐熱性・耐水性・防汚性が高く耐用年数も長いフッ素塗料を使うと高級感を出すことができます。
アクリル塗料はもっとも安価ですが、耐久性の低さから近年、あまり使われなくなっています。
大規模なマンションでは大量の塗料が必要になるので、塗料工事のコストを下げることが、全体の費用を抑えることにつながるのです。
単にコストだけで決めずに、耐用年数との兼ね合いでコスパが良いものを選びましょう。
シーリング工事とは、建物の外壁ボード間のつなぎ目や外壁とサッシのすき間など、動きの多い目地または隙間に高度の防水性・機密性等を確保するための工事のことです。
現状のシーリング材を取り除いて行う“打ち替え”と、現状のシーリング材の上から施工する“打ち増し”に分けられます。
ここでは、打ち替え工事に絞って、代表的なシーリング材である“一般的なシーリング材”と“高耐久シーリング材”を比較します。
工事種類 | シーリング材の種類 | 期待耐用年数 | 施工単価 |
打ち替え工事 | 高耐久シーリング材 | 20~30年 | 1,000~1,300円/m |
一般的なシーリング材 | 7~10年 | 800~1,300円/m |
一般的なシーリング材は手ごろな価格なため多くの現場で使用されていますが、耐用年数は7~10年程度と短く、定期的なメンテナンスが必要です。
対して高耐久シーリング材は、耐用年数が最長で30年と長く、耐久性、対候性に優れる素材です。
その割に、施工単価も一般的なシーリング材とそれほど変わりません。
各メーカーからさまざまな耐久性シーリング材が発売されていますが、施工業者がそのうちどんな製品を扱っているのか聞いてみましょう。
メンテナンスコストを抑えたい場合は高耐久シーリング材を、初期費用を抑えたい場合は一般的なシーリング材をおすすめします。
今回は、マンションの大規模修繕な何年ごとに行うべきかについて解説しました。
現在、大規模修繕は国交省の長期修繕計画作成ガイドラインなどを根拠に“12年周期”が目安になっています。
しかし、法令などの義務付けはなく、耐久性を高める材料や工法も開発されているので、多くのマンションでは10~18年のスパンで実施されているのが実情です。
大規模修繕の周期を長くできる高耐久工事は初期費用が高くなりますが、修繕回数が削減できる分、結果的には大幅なコストダウンにつながります。
ビルやマンションの大規模修繕工事や高耐久工事、防水・塗装・補修などのスポット工事は株式会社ウェルリペアにお任せください。
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